スタッフ紹介 -渡辺俊幸-

スタッフピックアップの第2回は、劇伴(いわゆるBGM)を担当された「渡辺俊幸」氏です。

●作品における「音楽」の重要度
 皆さんが今のドラマや映画、アニメーションをご覧になる時、必ず耳にしているであろう「音楽」。しかし、その存在を意識したことがある方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。「音を楽しむ」と書いて「音楽」と読む様に、同じ楽器が奏でる楽曲であっても時には楽しく、 時には勇ましく、そして時には悲しく…といったバリエーションがある他、それを聴く私達の気持ちによっても変わるそれは、十人十色の趣を持って受け留められていると思います。ですが、「十人十色」であったとしても 一つ言えることは、 「名作」と思える作品には必ず「名曲」が存在し、その曲が存在することによって、その場面(台詞)を大いに印象付けるものになっているということです。特に、TVシリーズやTVゲーム等は映画音楽に比べ繰り返し聴く事が多い為に、それだけでも印象に残りやすい曲は多いと言えるでしょう。
 話を初めに戻しますが、そんな「自然に耳にしている楽曲」に改めて意識して耳を傾けてみるとどうなるでしょうか。今では殆どの映像作品のサウンドトラックがCD化されているので、それを聴くこと自体は難しくないでしょう。しかし、本当に楽しめるサウンドトラックというのは幾つあるでしょうか。 知らないうちに口ずさめる、何年経っても忘れない、聴いただけで場面が共に蘇る、そんな珠玉の名曲たち…。
 何か「好きな作品」「気に入っている作品」がある方は、実際にその作品を好きになった瞬間や、一番好きな場面を思い浮かべてみてください。きっとそこには、おぼろげであっても音楽が共にあったり、その効果を受けて到達した何かがあるのではないでしょうか。もし、その場面の曲が違うものであったとしたら…。 そう、「音楽」は場面を、大きくは作品を左右するだけの力を持っていると言っても過言ではないのです。

●渡辺俊幸氏の「仕事」
 楽曲を手掛けられた渡辺俊幸氏は、あの「渡辺宙明」氏のご子息であることはご存知な方も多いと思いますが、親子といえども父親である宙明氏の影響を受けるよりも、「ビートルズでロック」に目覚め、「未知との遭遇」で映画音楽に目覚めたというように、 どうしても「親子二代」と聞くと考えてしまいがちな「比較」が意味を持たないことが分かる他、氏が受けたその時々の「衝撃」が楽曲の魅力となっているのにも気付かされることと思います。
 渡辺俊幸氏の活躍の場は、さだまさし氏の音楽プロデューサーやTVドラマ、映画といったものが多く、アニメーションの劇判を最初に担当された作品は「銀河漂流バイファム」(1983年)なのですが、それまでのアニメーション劇伴とは一線を画すドラマチックさと壮大さを兼ね備え、 作品の魅力を十二分に引き出すことに成功したと思います。その後もコンスタントにアニメーションの劇伴を担当されてはいるものの、私個人として未見の作品も多いのですが、触れている(聴いている)範囲で判断しても「渡辺俊幸"節"」を感じることが出来ます。

 その「渡辺俊幸"節"」というのは何か?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、音楽の構成要素の「メロディ」「ハーモニー」「オーケストレーション」の3つのうち、「メロディに対するオーケストレーション」「オーケストレーションに負けないメロディ」を重んじて、 単なる劇伴の枠に捉われない、「映画音楽」として完成させる中で生まれる恰好良さと気持ち良さが「渡辺俊幸"節"」だと思っています。時代に流されない、自分で「良い」と思うものを作り続ける姿勢こそ、逆に時代を超えて残る素晴らしい作品になるのではないかと思います。

●渡辺俊幸氏が表現した『アイドル伝説えり子』
 前置きが長くなりましたが(汗)、ここで『アイドル伝説えり子』の楽曲に目を向けて(耳を傾けて)みたいと思います。

 『アイドル伝説えり子』という作品の劇伴は、氏の担当作品では珍しいタイプの作品と言えます(大河ドラマを含め、壮大なイメージのものが多いので)。『えり子』は、所謂「映画音楽」が映える様な壮大な作品ではありませんので、前述した「渡辺俊幸"節"」の真骨頂を聴く事は出来ません。 しかし、作品を彩る楽曲群はしっかりと役割を果たしています。本編をご覧になっている方ならお分かりかと思いますが、明暗の緩急は場面演出も然ることながら、実は音楽効果も高いということが分かります。 とかく「暗い」「重い」という印象が目立ってしまう『えり子』ではありますが、穏やかな日常やえり子の可愛らしさを印象付ける楽曲があってこそ、「幸せ」なひと時を感じることが出来るのです。

 『えり子』を彩る音楽効果はどちらかと言えば「歌」の比重が高いと言わざるを得ない為、渡辺俊幸氏の仕事として大きな評価には繋がり難いのも確かです。ですが、本編中に流れるBGMの雰囲気は結構覚えている方も多いと思います。それが「渡辺俊幸"節"」と言っても過言ではないでしょう。
 雰囲気を左右するのは、先に述べた「メロディ」と「オーケストレーション」の関係と言って良いと思います。心情描写的な音楽が多い『えり子』の様な作品の中では雰囲気こそ重要だと思いますが、『えり子』の楽曲は、意識せずとも直接心に響く様なオーケストレーションと、正に刻まれる様なメロディが融合し、 木管楽器の柔らかい音色と親しみやすいメロディライン、ストリングスの優雅で奥の深い響きで構成されているからこその味わいを生んでいます。何気なく流れている楽曲ではありますが、是非とも耳を傾けて「渡辺俊幸"節"」に触れてみて欲しいと思います。

●渡辺俊幸氏の「世界」
 ここでは、渡辺俊幸氏が担当された他のお仕事の中から、お薦めしたいCDをいくつかご紹介します。やはり「劇伴」なので、作品を知る上で聴くのが最高の贅沢ではありますが、氏の楽曲の魅力に触れられる1枚としても十分に楽しめること請け合いです。
 「銀河漂流バイファム」音楽集 VOL.1  (株式会社ワーナーミュージック・ジャパン)
 渡辺俊幸氏の記念すべきアニメーション劇伴第一弾。今聴いても当時の記憶がキッチリ蘇る「渡辺俊幸"節"」が炸裂する1枚。収録時間は短いものの、『バイファム』の代表曲が多く収録されている為に満足度は高い。 最近のサントラと違い、OP、ED共にフルサイズ収録(笑)。『えり子』の楽曲を知っている方が聴けば、平穏な日常に流れるBGMのスタイルがこの『バイファム』で既に確立していることに驚かれるかもしれない。 世界観の中に「宇宙」があることからも、壮大な映画音楽的曲風が大変マッチしており、オーケストレーションとメロディの妙を作品も併せて是非味わって頂きたい。ちなみに、『バイファム』のサントラは他にも2枚あり。
 『えり子』体験者には「4.ほ・ほ・え・み」「8.きみはス・テ・キ」「11.希望」を、映画音楽的な楽曲を楽しみたい方には「7.バイファムのテーマ」「9.戦闘(まえぶれ)」辺りがオススメ。

1.宇宙空間(星々のテーマ)/2.疑惑(サスペンス)/3.HELLO, VIFAM(OP)/4.ほ・ほ・え・み/5.探索/6.異星人/7.バイファムのテーマ/8.きみはス・テ・キ/9.戦闘(まえぶれ)/10.鎮魂歌(レイクエム)/11.希望/12.NEVER GIVE UP(ED)/13.銀河漂流
型番WPCL-647
発売日1992.04.25
税抜価格\1,942
収録時間39'45"
 交響詩「美少女戦士セーラームーンR」  (日本コロムビア株式会社)
 本編の劇伴には全く関わっていない渡辺俊幸氏が手掛けた交響曲版『美少女戦士セーラームーンR』。よくある人気アニメーションの交響曲アレンジと思って頂いて差し支えないが、渡辺俊幸氏による作・編曲が行われた楽曲は完全なオリジナルであり、 ただ単にオーケストラアレンジしただけのアルバムに終わらず、しっかりとした交響組曲として成立させているのがポイント。リチャード・ピットマン指揮、シティ・オブ・ロンドン・シンフォニア演奏により、堂々と完成された音は是非聴いてみて頂きたい1枚。 特に映画音楽的に仕上がった楽曲は『セーラームーン』の世界を大きく膨らませ、聴く者を惹き込む。また、原曲アレンジのものは、全て主題歌・挿入歌といった歌をベースにしていることもあり、ここでも「メロディ」と「オーケストレーション」の妙を味わえる。
 『えり子』という切り口は関係無しに、一世を風靡した『セーラームーン』が渡辺俊幸氏の手でどの様に料理されたか、確かめておくのも悪くは無いだろう。
1.序曲:ファンタジア〜守護星の輝き〜/2.誕生〜ムーンプリズムパワー・メイクアップ!〜/3.出会い〜可憐な乙女と不思議な猫〜/4.闇の陰謀〜エナジーハンターの罠〜/5.美少女戦士七変化〜華麗に舞うセーラー戦士達〜/6.恋の呪文〜夢見る少女とバラ色の誘惑〜/7.ロマンス〜星降る夜のときめき〜/8.終曲:未来〜悲しみと決意 ファイナルバトルへ〜
型番COCC-11579
発売日1994.04.01
税抜価格\2,718
収録時間47'46"
 「救急戦隊ゴーゴーファイブ」ザ スコア 1  (日本コロムビア株式会社)
 父である渡辺宙明氏が基礎を作り上げたとも言える歴史ある「スーパー戦隊」の楽曲を渡辺俊幸氏が手掛けた。「スーパー戦隊」のシリーズは歴史が積まれているだけでなく、その劇伴作曲者の腕が試されるという趣もある(敵側、味方側、戦闘、心情描写、恐怖、勇敢…。ありとあらゆるものが同居するので、一辺倒では到底務まらない)為、どの様に仕上げたか興味が尽きない。 結果、「渡辺俊幸"節"」の真骨頂が炸裂するこの劇伴は、数ある「スーパー戦隊」の楽曲と比べても作品とのマッチングにおいて頭1つ抜きん出ている感のある、素晴らしいものに仕上がっている。「ここのトランペットが」「このストリングスが」という部分的なものではない、「オーケストレーション」と「メロディ」に拘る氏ならでは楽曲がここにある。 「高らかで、悲痛で、懸命で、壮大で、しかしおごりがなく、どこか優しく温かい。」と楽曲を表現していたライナーノーツも素晴らしい。『救急戦隊ゴーゴーファイブ』は、1本の作品としても素晴らしい出来に仕上がっていると思うので、本編も含めて是非楽しんで頂きたい。ちなみにサントラは全部で3枚ある。
1.前兆-グランドクロス-/2.「救急戦隊ゴーゴーファイブ」(OP)/3.災いの魔宮/4.世紀末の影/5.救急戦隊出場!/6.Save The Life/7.「Go!ファイブ Go!ファイト」/8.防災研究所の一日/9.兄弟だから…/10.暗躍する災厄/11.災魔一族の猛威/12.着装!燃えるレスキュー魂/13.剣よ、光を呼べ!/14.Mission Complete/15.「この星を この街を」(ED)
型番COCX-30299
発売日1999.04.21
税抜価格\2,800
収録時間44'27"
 浪漫紀行 〜 NHKテーマ音楽集 他  (株式会社ソニー・ミュージック・エンタテインメント)
 大河ドラマをはじめとする数々のNHK番組を担当された氏の初の作品集。同じ「劇伴」といっても、アニメーションや特撮とはまた違った趣のある1枚で、メインテーマの大切さを改めて気付かせてくれる仕上がり。原曲がTVサイズに合わせたテーマ曲となっているものは、1曲として聴き応えのあるものにする為にアレンジを施して「完全版」として生まれ変わり、TVで聴き慣れた方にも新たな味わいを提供してくれる。 より優雅で味わい深い楽曲群を堪能したい方には、オススメと言える。代表的な曲とも言えるテーマ曲が選りすぐられて収録されているので、聴き比べる楽しみもある。
1.NHK大河ドラマ「利家とまつ」〜颯流/2.NHKドラマ「大地の子」〜メインテーマ/3.NHK「新日本探訪」のテーマ/4.NHKドラマ「少年たち」〜メインテーマ/5.NHK月曜ドラマシリーズ「夢みる葡萄」〜メインテーマ/6.NHKスペシャル「阪神大震災5年」〜悲しみを乗り越えて/7.NHK大河ドラマ「利家とまつ」〜永久の愛/8.NHK大河ドラマ「利家とまつ」〜まつのテーマ/9.NHK大河ドラマ「毛利元就」〜メインテーマ /10.3D映画「葉っぱのフレディ」のテーマ/11.ファンファーレ・フォー・ザ・セレブレーション/12.交響的幻想曲「能登」
型番SICC 154
発売日2003.12.17
税抜価格\2,800
収録時間51'10"

 今回紹介した中で、『救急戦隊ゴーゴーファイブ』は作品も含めてイチオシです! 是非、機会を作って観て頂きたい1作です。『銀河漂流バイファム』も、今観ても名作だと思います。最近の作品に飽きた方には、是非!! どちらの作品も、きっと観終えた時に「渡辺俊幸"節"」がご理解頂けていることと思います。

●最後に
 多分、『アイドル伝説えり子』という作品を、更には普通にアニメーションや特撮、ドラマ等の映像作品を観る際に、ほぼ必ず存在している「音楽」とその「作曲家」を気にした方は少ないのではないでしょうか。 ドラマや映画であれば役者や監督、アニメーションなら監督、キャラクターデザインや脚本、声優ということは話題に上るものの、音楽という要素は重要であるにも関わらず意外にも話題にされる事が少ないと思います。 以前から音楽を気にする事が多かった私は、監督やキャラクターデザインよりも作曲家という観点で作品に触れる事も多く、作曲家の「色」とも言うべき編曲とそのメロディを楽しんでいました。
 今回のこの紹介が、一人でも多く「音楽」という要素に興味を持ち、それぞれの作曲家における楽曲のバリエーションや編曲の癖、得意なメロディライン等を楽しんで頂く切っ掛けになればいいな、と思っています。

◎渡辺俊幸氏所属・フェイス音楽出版サイト
http://www.face-music.co.jp/2_artist/watanabe.htm
(文責:こうたろ)

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